煙に沈む街とユーカリについて

ひさかたぶりに雨降って、地固まる。


メルボルンはいわゆる温帯性気候である。
”比較的過ごしやすく四季もちゃんとある” のだけれど、特に夏場は乾燥していて雨はめったに降らない。
木陰のない芝生などはひどいもので、地面に生えたまま干し草と化している。
先住民族アボリジニの神話でも、虹蛇(レインボーサーバント)と呼ばれるいちばんえらい精霊が司るのは、雨だそうだ。

雨が通り過ぎた後は、ユーカリと土の匂いがそこらじゅうにたち込める。
以前、日本へのお土産にと「ユーカリのお香」を嬉々として配って回り煙たがられた思い出があるけれど、
個人的にはこの手の匂いは嫌いではない。
雨上がりは決まって、外の湿った空気をたのしむことにしている。


煙といえば昨年、メルボルンの街は突如煙に覆われた。
近くの景色すら黄色く霞み、太陽はジワリと滲んでいた。
原因は、ブッシュファイアと呼ばれる、いわゆる山火事のケムリだった。
何万ヘクタール単位の大規模な火災でユーカリなどの森林が焼け、その煙が街まで流れ込むのである。
この日、煙は一日中街を包み続け、翌朝にようやくいつもの太陽を拝むことができた。
ところで、以前ある人から頂いたメールがきっかけで、ユーカリについて調べた事がある。
そしてこのユーカリ、ただ焼かれるだけではないのだ。


オーストラリアの森の木は、大部分がこのユーカリと言われている。
つまりブッシュファイアのメインディッシュなわけで、葉は油をよく含んでいるため、非常によく燃える。
さらに、こうべを垂れた葉は風に吹かれて擦れやすい。
まるで燃やしてくださいと言わんばかりである。
けれど興味深いことにこれは矛盾ではなく、どうやらユーカリは「火」を利用して繁殖する植物らしい。
ユーカリの種子は通常の条件下では発芽しにくく、山火事に晒され、その後訪れる雨季により一斉に芽吹くのだそうだ。
人工的にこの条件を作るのに、種子をフライパンで焙ることもあるのだとか。
そして空を覆う古木は焼け、新しい世代に日の光が注ぐ。

いままでコアラが大好きな葉っぱ程度の認識だったけれど、実に抜け目のないしたたかさでこの大地に根付いているというわけ。
こうして木々は逆境と共生し、燃え尽き、しなやかに次の世代へとそれを受け継いでいく。
そう、砂漠は生きているのだ。(砂漠ではない)


http://a-yo.ch.a.u-tokyo.ac.jp/2000/reikai1/matsumoto.html